事業レポート

まちづくりシミュレーションゲームで地域の未来を創造する

糸満市では2021年度から「第5次総合計画」がスタートします。その策定に向けた取り組みの一環として住民参加型の予算割り当てシミュレーションゲーム「いといとゆんたく超会議」を実施しました。参加者一人ひとりが糸満市長という設定のもとどのような10年間にしていきたいかをシミュレーションゲームを通して考えました。なお、こちらのシミュレーションゲームは2019年10月に実施した地域ワークショップの発展版として開催しました。

課題

地方自治体では10年ごとに「市がまちづくりを進めていく指標」である「総合計画」を策定しています。総合計画を進めていくためには適正な財政運営が必要となり理解と協力を得ることの重要性も高まっています。糸満市では「糸満市財政計画」との整合性や連結性の向上を図りつつ、厳しい財政状況を住民も再認識することが急務であり、全事業の縮小・廃止も含めた取り組みの選択や集中に向け、効率的、効果的な取り組みを進めていくために住民から理解を得る方法に課題を抱えていました。市民のニーズに即した適正な対応と昨今の財政課題を達成に向かうために市職員のみならず住民も一丸となって取り組む必要があります。

実施にむけて

行政が使う「行政言葉」と市民が使う「市民の言葉」はそもそもが違います。行政の世界では仕組みを作る役割があるため白か黒かはっきりさせる必要があります。しかし市民が生活する世界はお互い様であるため白と黒に加えてグレーも多くあります。財政に関しても同じで行政がイメージする財政と住民がイメージする財政は似てるようで違う部分がたくさんあります。まずは財政状況を「市民に分かりやすく」伝え、理解してもらうことが重要です。
そのため、今回の総合ワークショップは2部構成でプログラムを作成しました。第1部は「糸満市から情報提供」の講話。第2部はこれらを踏まえた「予算割り当てシミュレーション」としました。
住民が市の財政状況や人口ビジョンを正しく知ってもらい、シミュレーションゲームを体験することは今後の市を運営していくうえで自ら行動を起こしてもらうきっかけづくりとして継続的に推し進めていく必要があります。今回のプログラムは糸満市財政課、行政経営課、株式会社国建、市民活動支援センターまちテラスのみなさんご協力のもと組み立てました。

アウトプットしてもらう上でのゴール

・糸満市の財政状況をもとに市の運営と財源の流れを理解する
・人口減少、財源不足の事実を理解する
・現在の選択で未来が変わることを体感する
・将来像を断片的に洗い出し、理想の糸満の姿をイメージする

実施内容

まちづくりを進めていく中で住民と行政の歩み寄りが不可欠となるため、行政だけがまちづくりのプレイヤーとならないよう、3つの切り口からプログラムを作成しました。

3つの切り口

1つ目の切り口は「分かりやすい情報提供」。前段で記した通り行政の説明は市民には分かりづらいです。特に財政のこととなれば専門用語が多いため「分かりやすさ」に重点を置き情報提供を行いました。

2つ目の切り口は「住民の思いを住民が考える」。6回実施した地域ワークショップで抽出したキーワードを7つの分野に分け、それをもとに糸満市の魅力を考え、将来像をイメージし、実行プランを立てました。

3つ目の切り口は「稼ぐ視点と緊急事態」。まちづくりには何かを建てる、何かをつくるという「お金を使う」だけではなく、今ある資源をどう財源にしていくかの「お金を稼ぐ」視点も必要です。また、いつ起こるか分からない自然災害にも対応していく必要があり、緊急事態を盛り込んだゲームの内容でシミュレーションを進めました。

シミュレーション2030を応用したプログラム

「シミュレーション2030」とは熊本県庁職員の自主活動グループ「くまもとSMILEネット」が開発した2030年問題を体感する「対話型自治体経営シミュレーションゲーム」です。高齢化により社会保障に必要な予算が増え続けるなか、何の予算を落とし、残していくか。そして残された予算、事業でいかに幸せなまちを作っていくかを考える内容です。

今回の総合ワークショップでは参加者が「糸満市長になったつもり」で描く将来像にむけた取り組みを考え、予算を割り当てました。

4つのルール

①10年分を2回に分けて予算を割り当てる
第5次総合計画が適用される10年間を前期後期の5年ずつに分け予算を割り当てます。中間で割り当て結果に対するアドバイスを専門家チームからもらい、借金の返済や前期で割り当てた予算の効果である増えたお金の精算を行いました。また、後期のシミュレーションを始める前には緊急事態による復興予算1億円を確保しなければならないルールを設け、より限られた予算の中でいかに取り組みをイメージし実行していくかを深掘りしました。

②使えるカードは3種類
ゲームを運営していくために設けたカードは「財政カード」「借金カード」「稼ぐカード」の3種類です。各カードの単位は1億円と5千万円で両替はできません。与えられる財政カードは貯金を含めて6億円。借金カードと稼ぐカードの使用枚数の制限はありません。

③「何の取り組みを重要視したいか」をふせんに書き予算を割り振る
限りある予算を具体的に何に使うか考えてグループ内で対話をしながら割り振ります。このゲームで大切なのは「何の取り組みを重要視したいか」を考えることです。

④市の実情を踏まえて深掘りする
第1部で行った財政状況や人口ビジョンのお話をもとに糸満市をよくするためにどうしていくか、何をしていくかを深掘りしていきました。

結果

26名の住民に参加いただき5つのグループに分かれ総合ワークショップを開催しました。
住民ならではの面白いアイデアや市が現在進めている事業にメスを入れるような取り組みなども生まれ「限られた予算を割り振る」ことを体感してもらいました。また、将来の可能性やリスクの克服、継続性なども考慮する必要があるルールの中、あれもこれもできるわけではないという意識も芽生え、将来像に向けた偏った取り組みではない総合的、複合的な視点を盛り込んだアイデアを出してもらいました。

報告書|いといとゆんたく超会議

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記事を書いた人
北村 正貴

ファシリテーター・初級地域公共政策士(認定番号 第F15-0427号)
チーム活動に大切な「対話の方法」を教える研修やワークショップの企画運営をはじめ、組織開発(コーチング/ファシリテーション)のコンサルティング支援を行う。

「組織の"働き方"の課題を話し合いで解決したい」という漠然としたご相談から始まります。

北村ファシリテーション事務所では、あらゆるコミュニケーションの活性化を目指して、組織が目指したい状態に向かうために対話の場づくりでサポートします。働きやすい職場づくりに向けた対話ワークショップやスタッフ研修はお任せください。

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